会員の声・函館の居合道家 不京宏彰さん

December 24th, 2013

太氣至誠拳法氣功会松井道場には、空手や居合道など武術を極めんとする武道家たちが通っています。 
太気拳―  
それはすべての武術に通じる、戦いの原理が秘められている拳法。 
自らの技を高めるため、あるいは新しい気づきを得るため、経験豊富な武道家たちが学びに来るのです。 
函館市から片道5時間かけて通う不京宏彰さんは、居合道の高段者。大会での優勝経験もあります。
気功と居合道、そして太気拳に共通点を感じ、さらに強くなるために鍛錬を重ねています。
不京さんを惹きつける太気拳の魅力は何なのか。語っていただきました。 
(取材・撮影:㈱Sapporoccaが担当しました) 
 
まずは不京さんのライフスタイルを教えてください。 
 
函館市内に住んで会社員をしています。週2、3回は地元にある居合道場に通って稽古を受けています。札幌の松井道場には月一回だけ、土曜日に通っているんです。 
 
お住いの函館から松井道場がある札幌に通っているんですか? 
 
そうです。稽古前日の仕事が終わってから夜行バスで函館を出発します。翌朝に札幌に到着して、その足で午前中の稽古に参加。稽古が終わったらそのまま函館に帰るバスに乗ります。 
 
札幌にある松井道場をどうやって知ったんですか? 
 

居合道を始めようと思った約10年前、仕事ばかりで運動時間はほぼゼロ。30代のメタボサラリーマンで、何とかしないといけないと思い、身体を動かす武術をしようと決めました。地元に良い先生がいた縁もあって、居合道を始めることになったんです。 

ちょうどその頃、格闘技系の雑誌で太気拳を紹介している記事を読んで、太気拳のことは知っていたんです。松井先生の師である島田道男先生のことが書かれていました。「自分の言葉で語り、嘘を語らない武術家」と思って興味を持ったんですが、道場は東京なので会えるはずはないだろうと諦めていました。 

それなのに、太気拳を教えている道場が札幌にあることをたまたまインターネットで知ったんです。それが松井道場だったんですが、正直驚きでした。北海道には縁がない武術なんだろうと思っていましたからね。「奇跡」だと思いましたよ。
札幌までは確かに遠いです。でも、まずは無料体験稽古を受けてみようと札幌に向かいました。 
 
居合道を習っているだけでは駄目だったのですか? 
 
居合道場では、準備運動に気功を取り入れていたので、太気拳のような武術にも共通項があるのは薄々感じていました。松井道場のホームページに書いてある練習体系を読んでいて、居合道の稽古に通じるものがあると確信できましたので、それを本格的に知りたくなりました。自分の求めているものと似通ったことが、太気拳にあると思ったんですね。 
 
不京さんの求めているものとは? 
 

感覚的なものなので説明が難しいのですが、人間には能力を最大限に引き出す「気」というものがあります。それは武術だけではなく、普段の生活でも活用しているものです。 

例えば、「立ち振る舞い」や「作法」には「気」が関わっていると思います。食事をする箸と居合道の刀、見た目は全く違いますが、これらの持ち方には共通していることがあります。そのことに気がついてからは、食べる姿勢や箸の持ち方で、人の強さが分かるようになりました。居合道の大会で弁当を食べていると、「あの人には勝てそう」とか感じるんです。 

私は「気」について、もっと深めたいと思っています。松井道場の太気拳なら私の求めている感覚的なものを深められるような気がしています。 
 
無料体験では、不京さんが期待していたように居合道との共通点を実感できましたか? 
 
期待以上でした。 

無料体験の前に居合道の全国大会があって、ベスト8まで勝ち進んだところで負けてしまいました。負けた仕合で技に納得がいかず、モヤモヤが残りました。もっと刀の振り下ろしを鋭くしたかったんですが、できなかったんです。原因も分かりませんでした。 

疑問を抱えたまま松井道場に行って、3時間の無料稽古を受けました。翌日、居合道の練習で刀を振ったら、悩みが一気に晴れました。求めていたように、刀が鋭く振れたんです。 
 
どうして振りが変わったのでしょうか? 
 
無料体験では立禅を習ったのですが、腕を上げたままの姿勢は慣れない筋肉を使っていたんでしょうね。翌日の居合道の稽古では腕が筋肉痛になっていました。でも、これが気づきにつながったんです。

それまでは刀を振り下ろすのに「刀の重さ」を利用していました。でも、その時は腕が疲れていたので、刀を振り上げたら下ろすのに力が入りませんでした。すると、「刀の重さ」どころか「腕の重さ」まで感じたんです。そのまま振り下ろしたら、鋭さがでました。

それまでは必要以上に腕の力を入れて振っていたんですね。「刀の重さ」と「腕の重さ」が感じられるくらいに力を抜くことで、刀の威力が増すことに気がつけました。 
 
一度習っただけで効果があったんですね。 
 

そうなんです。腕の力を入れたままでは、腕の重さは分かりません。最近は立禅をしていて、指の重さまで感じられるようにまでなってきました。 

無理に力を使わない。これが武術の原理ですね。刀の重さは約1キロ。この軽さを重く感じるには、力を抜かないと分からないんです。さらに腕の重さまで感じるには、もっと力を抜かなければなりません。 

居合道をさんざんやってきたのに関わらず気がつけなかったのに、太気拳では知ることができました。太気拳は人間の力を引き出すことができる武術でして、やはり私が求めているものと方向性が一致しています。太気拳で気がついたことを居合道に当てはめて、さらに自分の武術を深めていけるんじゃないかと思っています。 
 
太気拳を続けていることで、居合道の技術に変化はありましたか? 
 
太気拳の稽古に通うと毎回、自分の間違いだったり知らなかったことに気がつきます。 

以前、刀を持っている手の平にずっとタコができていたんです。ある日、松井先生の動きにインスピレーションを得て、見よう見真似で刀の振りに応用したら、刀の勢いが変わって威力が増しました。手の平のタコも次第に消えていったんです。

武術の動きには、頭で考えていても見えないことがあります。肌で感じて体験で気がつくことがとても多いですね。太気拳で感じたことを「これってなんだろう」と探求していくと、急に居合道につながって技が広がることがありまして、すごく楽しいんです。 
 
居合道を長く続けていらっしゃる不京さんから見て、太気拳を習うことで戦えるようになりますか? 
 
太気拳が「戦える武術」であることは、先生方が行ってきた他流試合の結果で明らかだと思います。だから、松井道場には鍛錬を積んだ空手家でさえも通っているんでしょうね。彼らは言います。「空手の常識がまったく通用しない」と。 

私は「護身」という意味でも、太気拳を通して強くなれると考えています。護身というのは読んで字のごとく、身を守ることですが、戦って自分を守ることだけではなく、相手をも犯罪者にさせないように守ること。戦わずして互いの身を守ることもできませんか?

争いにならなければ、自分が痛い目にあうことはありません。相手も傷つくことだってなくなるんです。つまり、戦いにならないように相手を諭して、争いを避けることも護身だと思います。どのように自分を守るか、落ち着いた心で判断するのが肝要です。

これは合気道の達人の言葉ですが、「自分を殺そうとしている相手と友達になる」。それが護身なのです。 
 
太気拳を習うことで心のゆとりが養えるということですか? 
 
危険な場面に居合わせた時、「戦う」か「諭す」か瞬時に判断できるように自分をニュートラルな状態にもっていけなくてはなりません。この「ニュートラルな状態」は、立禅で鍛錬して得られる体勢です。どこにいても心を落ち着かせて、自分を守る行動を判断する。そんなことも太気拳を通して学べることができると思います。 

ただ、「戦いに負けない」という自信がないと、争いを避ける行為は相手に「逃げ」と思われ、逆に争いの種になってしまいます。技術や強さの裏付けがあってこそ、落ち着いた心で相手と話し合うことができるんです。 
 
太気拳で、どんな戦い方を習いますか? 
 
太気拳は空手などのように殴り方や蹴り方を本格的に習うわけではありません。立禅で感じた感覚を実践で使うすべを教わるんです。 
 

もう少し詳しく教えてください。 
 

太気拳の型には、立禅から始まり、揺、這、練、推手、組手があります(詳しくはこちら)。 

立禅で心と身体を落ち着かせます。私は自然の中で立禅をしながら、風を感じたり、木々のざわめきや香りを感じていると、落ち着いた状態の心と自然界のリズムが一致するように感じられます。そのように落ち着いた状態の心身を保ちながら、揺・這・練と徐々に動きを大きくしていきます。 

この一連のプロセスに戦いの基本があるんです。ライオンがサバンナで獲物を捕る瞬間や、逆に逃げる動物の動作のように、自然界の摂理みたいなことが太気拳を通して学べます。戦いの極意がここにあるのです。 
 
松井師範は、どのような教え方をしますか? 
 

物腰が柔らかく、知性的に指導してくださります。 

「気」というのは非科学的ですよね。言葉では分かりづらい。ですから、生徒が理解しやすいように、松井先生は伝える言葉を工夫していらっしゃるのが分かります。 

例えば、立禅の姿勢の時に「あごを引いてほしい」と伝えたいとき、引きすぎても駄目なんですが、ただ「引いて」というだけではどれだけ引けば良いか分からないですよね。 

松井先生は「あごの下に水に浮いたカマボコの板があって、それが流されないようにあごで押さえてください」と教えるんです。微妙な感覚が分かりますよね。そうやって表現方法を工夫して、動作を「イメージ」で伝えてくれるので、生徒の理解が早まっていると思います。 
 
今後も函館から通い続けるのですか? 
 
札幌まで片道5時間。そこまでして通う必要があるのか、自問自答したこともあります。でも、道場に通うといつも新しい気づきがあるんです。「行けばそこに何かがある」と思えるようになって、函館から通う答えが見つかりました。 
 
今後、どのような目標をお持ちですか? 
 
太気拳から見た身体の使い方を取り入れて居合道を深めたいと思います。居合道を指導する側にもなることがあるので、松井道場で学んだことを参考にできれば良いですね。 
 
このインタビュー記事を読んでいる方の中には、
実践的な武術を学ぶために太気拳を習おうと検討している読者がいると思います。
 
 

松井先生は、格闘家にも素人にも的確に教えることができる師範です。居合道にも通じる戦いの根源を学ぶことができるので、実践的な武術を習いたい方にも力になると思います。 

また、強くなるには健康でいることが第一条件ですが、太気拳は養生にも効果を発揮します。足腰の弱ったお年寄りや、身体が思うように動かない人も、太気拳をしながら無駄のないリハビリができると思います。

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