無心の射

December 30th, 2025

短期間だがアーチェリーを習ったことがある。
素人レベルから抜けることはなかったが何千射かするうちに二度、「無心の射」とでもいうべきことを体験した。

主に練習していたのはコンパウンドボウの18m種目。
弓の両端に滑車のついたコンパウンドボウはオリンピックで使用されるリカーブボウよりも命中精度が高い。
屋内なので風の影響もなく、的までも18mと最短である。
コンパウンドボウの屋内18mを選んだのは道具や環境による誤差が最も少ないから。
的の中心から矢が当たったところまでの差分がそのまま自分の心身のズレということになり、アーチェリーを通してこれを見つめたかったのだ。

的を狙うとき腕は常にゆらゆらと動き、完全に停止することはできない。
そこでわざと中心を狙うのではなく、腕の動きにあわせて、中心ににくる少し手前で射つといった工夫、小細工を色々と試していた。
そういう工夫をこらして何度も何度も射っていると腕が疲れてくる。
弓を引き絞り固定するには結構な力がいるのだ。

そうやって疲れながらも射っていた時、思わず暴発させてしまった。
普段なら弓を引き絞り、的を狙うために数秒間保持するのだが、引き絞った瞬間に思わず放ってしまったのだ。
「しまった!」心臓がドクンとした。
誤って人を射ってしまう事故がたまにあると聞いていたからだ。

幸い矢は18m先の的に当たっていたので回収にいった。
すると、矢が的のど真ん中に当たってるではないか。
こんなに気持ちよくど真ん中を射抜くことは滅多にない。

思い返せば、照準が的の中心を捉えた瞬間に身体が勝手に動いていたような気がする。
「自分」が意図せず「思わず」射たのでびっくりしたのだ。

数ヶ月後、ふたたび同じようなことを体験した。
その時はあまり驚かなかったが、やはり暴発したような、意図しない射だった。
そしてその矢は見事に的の中心を貫いていた。

本職の組手でも狙って打った打撃ではなかなか倒れない。
意図せず放ったパンチの方が効くことが多いのだ。

ただまかせればいい。
わかっていても、ままならない。

家にスーパーマリオのキノコがあった